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アマゾンのレビューに想うこと

2021/12/23

10数年前にエーアンドエーの新庄さんと著した『CADリテラシー演習』は初めてVECTORWORKSに触れる人向けであり、当時からその続編あるいは補足版を作りたいと思っていました。それがこのブログを立ち上げたひとつの理由でしたが、『CADリテラシー演習』を発表したエーアンドエーのシンポジウムでお会いした編集者さんのおかげで二年半前に『VECTORWORKS ベストテクニック 100』(エクスナレッジ)を発刊し、このブログを作った目的をほとんど果たせた気がしています。そのこともあって更新は2年以上前で止まってしまっていますが、未だに少なくないアクセスがあって嬉しいです。

一方で、今でもこのブログに記したような情報が求められるのは、ソフトが表面的に進化しても根本は変化していないと好意的に受け取ってもよいのでしょうが、情報発信を続けてきた者としては、このブログにあるような情報はもっと公式の立場から発信されなければならないものだから、ある種の絶望感もあります。

私がずっと理想だと考えているのは「ソフトがユーザーを育て、ユーザーがソフトを育てる環境」ですが、実現はなかなか難しいのでしょう。現実的にはソフトの枠内でしか作れないクリエイター志望者が増えているような気がしています。ソフトの枠からの逸脱は、ソフトとユーザーの両方を育ててくれるのですが、、、、。

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さて、『VECTORWORKS ベストテクニック 100』についてアマゾンで不思議なレビューが書かれていたので、ここで一言述べようと思います。(アマゾンのレビューに対して著者自らが他の場所で見解を述べるのは江戸の敵を長崎で討つような印象をもたれるかもしれませんが、そうではなく単にアマゾンのような場のレビューに対して著者が直接返答するのは不謹慎だと思うので、こちらに記す次第です。)

そのレビューをかいつまんで言えば「教材データが無い→実際に演習できない→駄本」という話の展開であり、最低評価(★1つ)が付けられていました。

アマゾンで閲覧できる目次で分かると思いますが、この本はページをめくりながら順に進めても良いのですが、むしろ自分で好きな項目を読んで方法を知り、読者自身のスキルやアイディアを高めるような使い方が向いています。極端な言い方をすれば、逆引きマニュアルあるいはFAQ集です。

このレビューの最初の部分「教材データが無い」は事実です。しかし、本のコンセプトから言えば教材データを付けたら「駄本」になります。というのは、課題となる状況を著者が教材データとして読者に与えるのではなく、読者自身がその状況を作り出すこと、あるいは、自分が陥っている状況がこの本に記されていることを発見することが重要な学習であるからで、

課題となる状況を自分で作り出せる

 →そこに存在する課題の意味合いが分かる

  →作業中に行き当たった課題とこの本の項目の関係を把握できる

と考えます。

そもそもこの本は入門用ではなく、一定のスキルを獲得している人向けなので、「読者は本で説明した状況を意図的に作り出せるだけのスキルを有している」という前提です。だから、申し訳ない言い方だけれど「教材なし=駄本」という判断は、レビュー者のスキルがこの本のレベルに達していないことを示していると推察できます。ピアノで言えばバイエルを終えてハノンやブルグミューラーやツェルニーに入ってしばらく経った人レベルに向けた本です(逆に言えばショパンやリストを軽々と弾ける人には無用の本です)。数か月~数年、VECTORWORKSを真っ当な方法で学べば、この本には教材が不要であることが理解されるでしょう。

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なお、アマゾンには「あなたはこの本の関係者ですか?」と尋ねたくなるほど、コンセプトをしっかりと理解してもらえたと感じるレビューがあり著者としてとても嬉しく思いました。

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ところでアマゾンのレビューといえば、私が関わった『図説年表 西洋建築の様式』に★1つと★4つがついています。★1つの方にはレビューが書かれていますが、低評価の理由は「発注した業者の対応」に対するもので「本の内容とは無関係」です。私はたまたま出版に多くかかわってきているし、『建築文化』誌に書評(=レビュー)を継続的に書いたり、学会誌の書評を書いたことがあり、その経験から読者が読みたいことを想定しながら書く習慣が身についていますが、世の大半の人はそういう経験を持たないので自分の言いたいことを書きがちです。だから読者アマゾンなどショッピングサイトのレビューにおいて、客観的であるべきレビューと主観だけで許される感想文が混然一体となっている状況は受け入れざるを得ないと思っていますが、上記のようなことで評価の平均値が下がるのは困ったことです。

正当な理由による低評価なら受け入れて次の機会に反映させられますが、上記の2つの事例は誰にとっても何のプラスにもなりません。たとえば『VECTORWORKS ベストテクニック 100』では「私は教材データ付きだと勘違いして買った。教材データが必要な人は注意せよ」のように書けば世のため人のためになったでしょう。

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これがこのブログの最後の投稿になる可能性が高いのに、VECTORWORKSの知恵とは無関係な内容で失礼しました。

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